「先週ね、私の高校が甲子園出場を決めたんだ」


サワサワ…と近くの木々が揺れる。


「私の彼氏がエースなんだよ。すごいでしょ。誰だと思う?」


答えは帰ってこなかったけど、きっと朝陽くんも知ってるよね。


朝陽くんのことだ。


きっと、向こうの世界から弟を見守っていたと思う。


「千隼くんが北野を甲子園に連れて行ってくれたんだよ。朝陽くんの夢だった甲子園に…」


さっきよりも激しく木々がざわめく。


「…私ね、朝陽くんのことがずっとずっと好きだった。朝陽くんがいなくなってからも、ずっと忘れられなかった」


ポツリ…ポツリ…


大粒の雨が数滴落ちてきた。


「苦しかった。ずっと会いたかった」


ポツ、ポツ、ポツ…


あっと言う間に強くなる雨あし。


「千紘!ゲリラ豪雨危ないからそろそろ帰ろう」