忘れられるわけがない。


私が千隼くんに向き合うようになったきっかけでもあるんだから。


「翔吾以外の人には話してなかったんだけど、俺…突然投げれなくなることがあるんだ」


「どういうこと?」


突然投げられなくなるって…?


「母親にずっと罵詈雑言を吐かれ続けてきた。小さい頃から、今までずっと。兄貴が亡くなってからはそれが酷くなって、お前が死ねばよかった、お前が朝陽を殺した、なんで死んだのが朝陽なんだって、ずっと言われ続けてさ」


苦しそうに語る千隼くん。


眉間には苦悩が刻み込まれている。


「ふとした時にそれが蘇って、手に力が入らなくなる。ボールが手につかなくて、コントロールなんかできなくて。去年の夏、サヨナラ負けした理由は俺の弱さなんだ」


「そう…だったんだ…」


知らなかった。


千隼くんがそこまで深刻な家庭環境だったなんて。


そんなに悩んで思い詰められていたなんて。