「俺、兄貴がいたんだ。とにかく野球が上手くて、周りからチヤホヤされててさ。俺は兄貴が嫌いだった。

“お兄ちゃんはすごいね”
“それに比べて弟は…”
“お兄ちゃんならプロになれるかもな”
周りの大人からいつもそう言われてきた。

お前は下手だ、才能がないって暗に言われてるような気がして、すぐに野球を辞めた。

野球も兄貴も嫌いで、兄貴ばかり褒める大人も嫌いだった。

でも、兄貴は死んだ。

そしたら周りの目はもっとひどくなったよ。

どうしてお前じゃなくて兄貴が死んだんだって言いたげな雰囲気でさ。

兄貴が甲子園に行くのを楽しみしてた母親はその日以降笑顔を見せてくれなくなった。

そんときに思ったんだ。

あぁ、俺は兄貴の代わりに甲子園に行かないといけない。母親に笑顔を取り戻してもらうためには俺が兄貴の代わりに行くしかないって。

…でも…今でも思ってんだ。

俺は一生兄貴には勝てないって。

自信がない。どんなに頑張っても褒めてもらえなかった幼少期や、兄貴と比べて下手くそなんだなってことを思い出すと、俺の実力なんか大したことないって不安になる。

まー、ある種のトラウマかなー…」


ゆっくり、じっくり、噛みしめるようにして吐き出された言葉は、想像を絶するものだった。


まさかお兄さんを亡くしていたなんて…。


そんなつらい幼少期があったなんて…。