「…話ってそれだけ?」


初めて寄越された視線は、氷のような冷たい目だった。


「……っ」


初めて千隼くんが怖いと思った。


優しくて穏やかな千隼くんとはまるで別人。


「それとさ、過去が吹っ切れたら俺と付き合ってほしいって話、なかったことにしてくれる?」


「…え……?」


掠れた声が漏れる。


「どうして…?やだよ…っ」


ハッキリと、嫌だと思った。


なかったことにはしたくない。


そう思った時点で答えは出ているのに…っ。


もう、遅かったんだ。


「…冷めたっていうかなんていうか。別にもういいやって」


「…っ」


「甲子園への夢も同じ。もう冷めた」


そんな……。


「どうして…?たった一回の敗戦じゃない…っ!まだ夏の大会が残ってるよ…っ」


その夢だけは捨ててほしくなかった。