未だかつてこんなに暗い幕開けはあっただろうか。


皆声を出して元気にやっているのに、エースで副キャプテンの千隼くんだけが別世界。


嫌な空気がベンチを流れている。


いつもならそれを咎める翔吾も今はいない。


バッテリーを組んでいる坂本くんも、そんな千隼くんとどう接したらいいのか分からず戸惑うばかり。


「ちょっと千隼くん。いい加減にしなよ」


私が言わなきゃいけない。


私は甲子園を目指すためにマネージャーをやってる。


今、ちゃんと言わなきゃ。


「翔吾の怪我が何?いつまで引きずるつもり?今やるべきことは勝って翔吾を甲子園に連れて行くことでしょ?やる気出しなよ!」


千隼くんがつらいのは分かる。


でも、いつまでも引きずっていられない。


そんなの千隼くんだって分かってるはずなのに。


「…エースがそんなんじゃ情けないよ」


元気を取り戻してほしい。


いつものような圧倒的なピッチングをしてほしい。


明るく笑顔で、堂々とした千隼くんが私は好きだ。


だけど。私の気持ちは伝わらなかった。


千隼くんとの間には高くて厚い壁があったんだ。


輝きを失ったエースは、秋空の下、儚く散った。


2-10


集中砲火を浴びた千隼くんとともに北野は初戦で姿を消した。


そこに悔しがる千隼くんはいなかった―。