「千隼が言ってた。千紘の笑顔が好きだって。だから元気出せよ。てか、なんで怪我人の俺が何ともないお前を励ましてんだよ」


翔吾が明るく笑った。


私にはそれが空元気にしか見えなかった。 


「…ホント暗いなお前。千隼の面白い話でもしてやろーか?」


「……面白い話?」


「準決勝で光西相手にノーヒットノーランしたときの裏話」


裏話…?


「ちょっと気になる…」


素直にそう答えると、翔吾はニヤッと口角を上げた。


「お前さ、準決勝の前日にアイツのことフッたろ」


…知ってたんだ。


「その夜、千隼から電話が掛かってきて泣きつかれた」


「え…。千隼くんが?ホントに?」


「マジマジ。千紘にフラレたってわざわざ電話してきたんだって。準決勝前日だぜ?緊張してた俺がバカみたいだわ」


そうだったんだ……。


千隼くん、普通に翔吾に私の話をしてくれてたんだ…。


「しかも、この世の終わりみたいなトーンなわけ。アイツの中では準決勝より遥かに千紘が大事だったんだろーよ」


翔吾は優しく笑う。


「まー、そんのときはまさかノーヒットノーランやり遂げるとは思いもしなかったな。正直負ける気がしてた。でもたぶん、千紘にフラレたことがアイツの心に火をつけたんじゃね?」