「…さっき千隼が来てたんだけどさ」


翔吾が真剣なトーンで話し始めた。


「アイツ、見たこともない悲壮な顔だった」


…皆の前では気丈に振る舞っていたし、私の前でもそんな素振りは見せなかった。


きっと、翔吾にだけ見せている顔なんだ。


そう思うと、翔吾が少し羨ましかった。


「……俺抜きで頑張れ。そう伝えたけど、アイツのことだからどうせネガティブになってんだろうよ」


千隼くんがネガティブに…?


そんなイメージなかったな…。


「1回ネガティブ思考に入ったら全然抜け出さないかんな。しかもそんな素振りは見せないで一人で悩む。バカなんだよ、アイツは」


…知らなかった。


翔吾の言葉によって、千隼くんのイメージが新しく塗り替えられていく。


「だからさ。お前がアイツのこと支えてやれ。お前が思ってるより遥かにアイツは脆いから」


…千隼くん……。


私…千隼くんのこと何も知らなかった…。


表向きの千隼くんしか見ていなかった。