―パァァン!!
今日もキャッチャーミットから快音が鳴っている。
千隼くんが入部して早くも1週間が経った。
コミュ力が高い千隼くんは、すっかり部に馴染んでいるし、皆の中心になりつつある。
「あー、なんか雨降りそうだなぁ…」
水気が肌にまとわりつくジメジメした空気に、どんよりと淀んだグレーの空。
千隼くんの投球は、そんな灰色模様を切り裂く一筋の光のようだった。
最初は彼の投球を見るのが嫌だった。
でも…千隼くんは千隼くんだから。
本人がそう言ったから。
だからなるべく意識しないようにしている。
それでもやっぱり朝陽くんの影を感じることはある。
「…似てるなぁ……」
顔も声も性格も何も似てないのに。
あの朝陽くん特有のフォームが忘れられない。
試合を見に行って、どんなに遠い場所からでも朝陽くんだけはすぐに見つけられた。
“甲子園に連れていく”
…千隼くんもそう言っていた。
千隼くんとなら行けるかもしれない。
夏の予選を、突破できるかもしれない。
ポツ…ポツ…
「うわっ雨だ」
干してるゼッケンを回収しに行かなきゃ。
真子ちゃんに声をかけてから行こうと思ってる間に、雨は本降りに変わる。
一旦校舎に退避したけど、結局練習は中止になってしまった。
夏の予選まで1日たりとも無駄にしたくないのになぁ…。
「はぁ……」
諦めきれない夢舞台。
朝陽くんの夢はいつしか私の夢になっていた。
このメンバーでその舞台を目指せるだろうか。



