でも。


あの日のマウンドでは違った。


“何があった?”と聞いてきたときの、あの怪訝な目。


母親の目とそっくりだった。


溺愛していた兄貴を亡くし精神を病んだ母親は、精神病棟に入院している。


決勝戦の前日、その母親に会いに行ったんだ。 


いつまでも母親との過去に囚われていたらいけない。


そう思い、過去を清算するつもりだった。


“県予選の決勝に進んだ。勝てば甲子園に行けるんだ”


そう話したときの俺は、母親にどんな反応を期待したんだろう。


母親の反応は、冷たかった。


分かっていたはずなのに、期待を裏切られた気分だった。


“あの子ができなかったことをアンタがやるなんて許さない。それでお兄ちゃんに勝ったつもり?私は一生アンタを恨むわ。あの子の代わりに死ねばよかったのよ!”

“どうせアンタには甲子園なんて無理よ。アンタがあの子に勝てるわけないんだから”


母親と決着をつけるつもりだったのに、逆に心がえぐられた。