「……きっと、千紘も勝ちたかったよな。甲子園に行きたかったよな…」


“甲子園に連れてって”


そう頼まれた日のことを克明に思い出す。


儚い儚い約束だった。


夢破れた日、千紘が見せた涙を見るのは本当にツラかった。


「……俺のせいで千紘の夢を…」


あの日、突然指に力が入らなくなった。


このままじゃ負ける。


そう思った。


でも…もうどうしようもなかった。


「……なぁ。あの時、何が起きたんだよ」


翔吾が力強い目で俺を見つめる。


この夏、何度もこの目に救われた。  


勝ち進むにつれて重くなっていくプレッシャーと戦うための力になってくれた。


こいつを信じて投げれば大丈夫。


そう言い聞かせて投げてきた。