千隼くんの球はミットに届く前に、バットに弾き返されたんだ。


高らかと舞う白球。


行方を追う必要なんてなかった。


完璧な打球だった。


大きな大きな弧を描き、ライトスタンドに着弾した――。


「…嘘だ……」


スタンドから聞こえてくる、悲鳴と歓声が大混雑した地響のような声が、これは現実なのだと教えていた。


サヨナラ勝利を決めた打者が、ホームベースで揉みくちゃにされている。


その奥で、独り立ち尽くすエースの姿。


ボロボロになったエースに、誰も声をかけられなかった。


試合終了の音が流れる。


それは、私たちの夏の終了を告げる音だった。


千隼くんは動かなかった。


拳を握りしめ、ただジッと立ち尽くしていた。


終わったんだ。


今年の夏はもう…終わったんだ…。