どんな形でもいいからあと1つアウトをとれれば…。


「お願い…千隼くん…」


千隼くんなら絶対大丈夫。


そうだよね…?


帽子を一度とり、汗を拭う千隼くん。


大きく深呼吸して、ロジンに触れる。


その一挙一動に全員の視線は釘付けだ。


翔吾のサインに顔をしかめて首を振り続ける。


こんな千隼くん、初めて見た…。


いつもマウンドでは爛々としているのに、今はツラそうで見ていられない。


急にどうして…?


あと1アウトなのに…。


長い間合いでようやく決まったサイン。


深呼吸をしてから投球モーションに入る。


千隼くんが投げた球は、一直線にキャッチャーミットへ向かう。


まるで、スローモーションだった。


世界の音が消えたようだった。