父親の不倫が始まったのは、日下部がまだ二歳の頃。
おとなしく甲斐甲斐しい妻より、垢抜けていてパリッとしている女性の方に魅力を感じ始めた父親は、家庭の事など省みず義母にのめり込んだ。
しばらくして義母が妊娠して、父親には二つの家庭が出来た。
両方の家族を養うくらい余裕のあった父親ではあったが、そんな生活が十年続けば面倒にもなるわけで。
あっさり、妻と子供を捨てたのだ。

その後、父親からは今までと変わらない生活を保障できるほどの養育費をもらいつつ、母親と二人で暮らしていたのだが…。
母親が男に狂い始めたのだ。
寂しい心に耐えきれず、中年の危機も便乗したため、依存したといった方がいいかもしれない。

自分だけの幸せがほしい…幸せになりたいの。
そう言って出ていってしまった。
子供付きでは面倒見れない、どちらか選べといわれて、迷うまでもなく男を選んだ。

そして父親が迎えに来た。
父親に後の事を頼んで男と消えたのは、母親のせめてもの罪滅ぼしだったのだろうか。
引き取りに来た父親の顔は正直覚えていない。

ドラマの設定でも信じ難い話しを前にしたやよいは、素直にどう反応すればいいか分からなかった。
しかし日下部も特に反応してもらいたいわけではなく、過去の話として聞かせたといったところ。

「だから、俺の体には男好きと女好きの遺伝子が組み込まれてるってわけ」

嘲りも入っているが、大体はやけくそ。
過去の話を聞かせるくらいなんということはないけれど、自分の中に眠っているかもしれない両親の遺伝子は、嘲りだけでは消化しきれない。