たまらない。
この人は本当に、たまらない。

あの時やよいにそっけなくし、やよいを拒絶した自分がなんて愚かだったのだろうかと、今更悔やんだ。
けれどもし、もう一度やよいが思いをぶつけてくれたなら、結果は違ったのにと、そんな期待すら芽生えた。

「あ、あなた、なに言ってるの、バカじゃ…」

「いいね、それ。そうしようか」

憤慨する母親の言葉を遮り、目元にうっすら涙を浮かばせた日下部がやよいに向き直る。
笑いすぎて浮かんだ涙、そう思いたかったがどうやら違うということは、そろそろ認めなければならない。

君って人は、本当に───

溢れ出す感情はもう止められなくなっていた。

こういうことだったのだ、と、ずっとずっとぽっかり穴が空いたようだった胸の奥に語りかける。

ごめん、園村さん。
ありがとう。

やよいの腰に日下部の腕が回る。




「引き取って?」





そう言ってやよいを軽く抱き締めた後、彼女の手を引いて家を飛び出した。