「幻想だったのかもしれないですね」

野志は笑った。

学校の教室。日本。21世紀初頭。

夕焼けが教室に差し込んでいた。文庫本を野志は開いて。

少年の柑蜜がいう。中学生の柑蜜。

「野志。ソーダ水が飲みたいな」
「そうですね。
学校にはないものですけれど」

文庫本は群青の表紙。青い海が描かれている。

野志はふと夕焼け空を見た。

「クリアな景色ですね」
柑蜜はそれには答えず。

「そろそろ夜だ」
「そうですね」

野志は立ち上がるとカバンを手に取る。
柑蜜がのんびりとジュースを飲んでいた。