大坂の陣も、最後の幕を開けるばかりになっている。

 濠を尽く埋立てられ、防御能力を喪失した巨大城塞は、過去の栄華にしがみついて生きる、豊臣家の虚ろな墓標そのものだった。
 
 その外見ばかり重厚な城郭の中に、未だに五万を超える武者達が、息を殺して潜んでいる。

 その殆どが、戦国の世から溢れ落ちた牢人たちだった。
 
 主家を取り潰され、或いは減封されたあおりで禄を失った者。
 徳川に尾を振るばかりで、戦国大名としての気概を喪くした主家を、自ら見限った者。
 この城にやって来た理由はそれぞれだが、この刻に至ってなお城内に残る者共の、思いは同じだった。 
 
 もはや名利は求めず、武士としての死に華を咲かせるのみ。

 俗利や身命に心を残す者は、冬の陣の後に城外へ退去していた。