「じゃあさ、緊張解すために少し話そうよ!」
瀬戸くんは椅子を指して、「ほら、一ノ瀬さんも座って」と言った。
私はその椅子に座って瀬戸くんと向き合う。
「じゃあお互いに一つづつ質問しようよ!俺たちそんなに話したこともないしさ!もっと話した方がピアノと指揮も揃うようになるしね!」
瀬戸くんはそう言って質問を考え始めた。
「じゃあ、一ノ瀬さんの好きな食べ物は?」
内心どんな質問がくるのかとどきどきしていたからよくある質問でほっとした。
「好きな食べ物か、桃が好きかな」
私が、そう答えると瀬戸くんがはっとしたように言った。
「名前が桃花だから?」
突然呼ばれた自分の名前に驚いた。
「うん、それもあるかも。とういうか、私の下の名前知ってたんだ。」
「そりゃあ知ってるよ、3年間同じクラスなんだから!あ、もしかして一ノ瀬さん俺の名前知らない?」
「知ってるよ!結城くん!」
自分で言ったのになんだか下の名前で呼んでしまって少し恥ずかしくなった。
「お!正解!覚えててくれて嬉しいな!ちなみに俺の好きな食べ物は肉!名前関係ないけどね!」
「名前と関係ある人の方が少ないよ」
というと「たしかに!」と言って笑った。
「じゃあ次!一ノ瀬さん!」
私は少し考えて思いついた質問を問いかける。
「じゃあ、好きな色は?」
うーんと考え込むと思いついたように瀬戸くんが口を開く。
「青かな!青が好き!」
「え!私も!」
同じなのが嬉しくて声が大きくなった。
「一ノ瀬さんそんな大きい声出るんだ」
瀬戸くんが目を見開いて私を見た。
「同じだったからつい」
「ははは、いつもそれくらいでしゃべってよ!」
「いつも大きな声で喋ることになっちゃうじゃん!」
と言って私も笑う。
「ちょっと緊張ほぐれた?」
「うん、ありがとう。」
「じゃあもう一回ピアノと合わせよう!」
そう言って再び私の指揮に瀬戸くんがピアノをのせる。
「さっきより随分よくなったよ!」
曲が終わると瀬戸くんは笑ってそう言った。
「本当?緊張がほぐれたからかな?」
「じゃあこれからは練習の前に質問し合って緊張ほぐしてから練習しよう!」
「うん、そうだね!質問たくさん考えておく!」
私が張り切ってそう答えると、
「沢山って、質問は1日ひとつだからね。」
と瀬戸くんが笑って答えた。
「あ、そっか。」
「また明日も放課後、音楽室ね。」
鍵盤を磨きながら、瀬戸くんがそう言った。
「うん!じゃあまた明日!」
