最後の質問


音楽室の前に着くともう中からピアノの音が聞こえる。

私はそっと扉を開けた。

「遅くなっちゃってごめんね」

「全然!来てくれてよかった!」

「途中で高橋先生に会って、もう伝えたんだね」

「早い方がいいかと思ってさ」

そう言うと瀬戸くんは椅子から立ち上がった。

「じゃ一ノ瀬さんはここに立って、指揮の振り方は分かる?」

「うーん、こんな感じ?」

私はぎこちなく腕を振る。

「お!そうそう!そんな感じ!なんだできるじゃん!」

「え、そうかな?」

「この曲は4拍子だからずっとこの形ね」

そう言って瀬戸くんが見本を見せてくれた。
綺麗な指先で4拍子を描く。

「こうかな?」

それを真似て私も指揮を振る。

「うんうんいい感じ!じゃあ早速ピアノと合わせよう!」

そう言うと瀬戸くんは再びピアノ椅子に座り、指を鍵盤に置いた。

「初めは大きく2つ振りね、そしたら俺入るから!」

「うん」

私は頷いて深呼吸をした。
心の中でカウントをする。

1、2、

3、4で大きく腕を振ると静かな教室にピアノの音が響いた。

その綺麗な音に聞き惚れて指揮を振るのををされそうになる。

頭の中で1、2、3、4、と懸命にカウントする。
ずれないようにと自分の手を追ってしまう。

無我夢中に振っていて、気づいたら曲が終わってた。

「ははは、一ノ瀬さん緊張してる?最後は止めてよね!こう!」

と瀬戸くんが手を握って止める素振りをした。

「あぁ、ごめん!緊張してた!」

私はあげたままの手を下ろした。

「そんなに指揮振るの緊張する?」

「え、あぁ、うん。初めてだから。」

本当は指揮を振ることだけに緊張してたわけじゃない。
瀬戸くんと2人きりのこの空間にも緊張してた。