私の学校にはちょっとしたジンクスがある。
卒業式の合唱で指揮者とピアノの伴奏者をやった生徒が恋人同士になるというものだった。
そのジンクスがあるからかは分からないけど、大概指揮者と伴奏者は男女になることが多かった。
私は、自分には無縁だなと思いながらもそのジンクスが素敵で好きだった。
そんなことを考えていたらあっという間に曲もクライマックス。
ピアノを弾いている瀬戸くんの横顔が夕日に照らされてとても綺麗だった。
私たちはちょうど、高校生活の半分を終えたところだ。
この歌を歌うときにはどんな気持ちなんだろうと想像するとなんだか切なくなった。
瀬戸くんが最後の音を弾き終わる。
私は小さく拍手をした。
「やっぱり上手!綺麗な音で聞き惚れちゃった」
「照れるな」
瀬戸くんは照れ臭そうに目を逸らして、鍵盤の上にある自分の指先を見ていた。
「楽譜見ないで弾けるの?すごいね。」
「去年卒業式で聴いて、いい曲だなって思って練習してたんだ。」
「私もこの曲大好き。」
そう言うと瀬戸くんが「俺も」と言って、ポロンポロンと鍵盤を鳴らした。
「じゃあ、私たちの卒業式の伴奏は瀬戸くんで決まりだね!」
私は瀬戸くんの指先を見て言った。
「ええ、どうかな?」
瀬戸くんが鍵盤から指を離す。
するとはっと思いついたように私の方を見た。
「あ!そうだ!じゃあ俺が伴奏者になったら、一ノ瀬さんが指揮者やってよ!」
「え?」
「きまり!」
瀬戸くんは私を見て微笑みながらそう言った。
頭にあのジンクスが過ぎる。
瀬戸くんはジンクスのこと知らないのだろうか。
どちらにしても私には指揮者なんて、できないと思った。
「でも私、指揮者なんてできないよ!人前に立つのも苦手だし。」
それに、瀬戸くんと自分じゃまるで釣り合わない。
「大丈夫だよ!練習なら付き合うよ!」
「でも」
「ピアノ聴かせてあげたお礼!」
瀬戸くんがいたずらっぽく笑った。
「瀬戸くんが聴く?って聞いてきたのに!騙された!」
と言って私が頬を膨らませると、
「バレたか」
と言って瀬戸くんも笑った。
また少し沈黙が流れる。
「覚えてたら」
私が小さく呟いた。
「え?」
「卒業式の前まで覚えてたら指揮者やるよ」
私はピアノを見ながら言った。
「本当?」
瀬戸くんは顔をぱぁっと明るくする。
「じゃあ約束ね?」
そう言って小指を差し出してきた。
私は小さく頷いて、瀬戸くんと指切りを交わした。
多分顔が赤かったと思う。自分の体温が上がるのがわかって、それが瀬戸くんに伝わっちゃうんじゃないかと思った。
「あ、片付け行かないと!」
そう言って私はぱっと指を離す。
「そうだね」
と瀬戸くんが答えて、2人で教室に戻った。
そのあとはたまに話して、あとは黙々と片付けをした。
