「良いピアノには良い指揮者が必要なんだよ?」

瀬戸くんが指揮を振る素振りをする。

「だったら尚更できないよ!私音楽もやったことないのに、、、」

私はさらに強く首を振った。

「そもそもどうして私なの?吹奏楽部の子とか、もっと適任な子がいるんじゃない?」

「俺は、一ノ瀬さんの指揮でピアノ弾きたいから。それに、ほら、約束。」

瀬戸くんがはにかみながらそう言った。



「忘れてるかと思った。」


私は小さい声で呟いた。
声をかけられた時、もしかして、とは思っていたけど、本当に約束を覚えてくれているとは思わなかった。

「忘れるわけないじゃん!だから、やってくれる?」


「でも、」


私がまだ渋っていると、思い付いたように瀬戸くんが声を上げた。

「あ!そんなに心配ならこれから1ヶ月毎日一緒に練習しようよ!」

急な提案にわたしはびっくりした。

「え?」

「大丈夫だよ、分からないことあったら俺が教えるし、ね?」

瀬戸くんは私の目を捉えて離さない。
これ以上の断る理由も見つからない。


「じゃあやってみようかな」

その一言で瀬戸くんは、より一層笑顔になった。

「やった!先生には俺から話しとくから!じゃあ放課後音楽室で!」

押しに負けて引き受けてしまった。
いやそれだけじゃないのかもしれない。

約束を覚えててもらえたのが嬉しかった。

それに加えて、もっとたくさん瀬戸くんと話したいという気持ちもあった。