振り返り、腕を上げる。
私はゆっくりと深呼吸をして体の向きをピアノに向けた。
君と目が合う。
君は少し微笑んで、指を鍵盤に置いた。
私が腕を振る。
体育館に心地よいピアノの前奏が響き渡った。
私はピアノから体をそらし、みんなの方に体を向けた。
みんな揃って息を吸い、その心地よいピアノに歌声を乗せる。
色々な思い出が蘇る。
3年間、沢山の思い出があったはずなのにこの1ヶ月の思い出ばかり蘇ってくる。
みんなの泣く声が徐々に増えていく。
私も目の奥が熱くなる。
涙が出そうなのをカウントに集中してしっかり堪える。
1、2、3、4
もう終わりに近づいている。
終わりたくない。
1、2、3、4
歌が終わる。
あとはピアノの伴奏だけだ。
1、2、3、4
瀬戸くんがピアノを弾く姿を目に焼き付ける。
だんだんぼやけて視界が良く見えない。
私が手を握りピアノの音が静かに消える。
後ろからは、大きな拍手が贈られる。
振り返ってお辞儀をすると、私の目から静かに涙が溢れた。
