「やっほー」
私はいつも通り音楽室に入った。
「やっほー」
瀬戸くんもいつも通りピアノの前に座っている。
そんな1ヶ月のいつも通りが、明日からはもうないと思うとやっぱり寂しい。
「今日の合わせよかったよ、もうバッチリだね!」
そう言って瀬戸くんが笑いかける。
「うん。この1ヶ月瀬戸くんが一緒に練習してくれたおかげだよ、ありがとう。」
こちらこそと瀬戸くんが微笑んだ。
2人の間に沈黙が流れる。
「あのさ、質問じゃないんだけど聞いてくれる?」
瀬戸くんが私の目を捉えたままそう言った。
「うん。いいよ。実は私も質問思いつかなくて。」
そう言って椅子に座る。
「明日、卒業式が終わったら音楽室に来て欲しい。最後に話したくてさ。」
瀬戸くんは私の目をまっすぐ見てそう言った。
いつにも増して真剣な顔だった。
最後、と言う瀬戸くんから発せられた響きに、本当に明日が最後なんだと実感させられる。
やっぱり瀬戸くんはアメリカに行ってしまうのだろうか。
「分かった。」
私も瀬戸くんを見つめてそう言った。
瀬戸くんが「ありがとう」と言ってピアノの前に座り直した。
「じゃあ最後の練習、始めようか。」
笑ってそう言うと瀬戸くんは鍵盤に指を置く。
「うん!」
私も瀬戸くんの前に立ち腕を振り上げた。
いつもの音楽室、いつものピアノの音。
一音一音、噛み締めて指揮を振る。
曲を弾き終えて、最後の練習が終わる。
「じゃあ、明日はよろしくね。」
そう言って瀬戸くんはピアノの鍵盤を磨く。
いつも通りの練習終わり。
