遠い星に住む君と

 次の日、僕は木下さんに言われた通り、中央病院にやってきた。


 ドアを数回ノックしてから105号室のドアを開けると、昨日よりもさらにやつれた木下さんがいた。


「来てくれたんだね。嬉しい」

 
 そう話す木下さんの声も、やけにか細く聞こえた。


「約束したからね」


「ふふっ、そうだね。私があんなに念押ししたからね」


 そう言って、微かに笑う。


「…あのさ」


 木下さんがこちらを見る。


「木下さんが僕と話したり、ゲームセンターに行ったりしたのは、星に帰る前の思い出作り?」


 僕の言葉に、木下さんは少し驚いた様子を見せた。


 そして、ゆっくりと口を開き、


「そうだよ」


 と言った。たった4文字の言葉なのに、僕にはやけに重く感じた。


「私が君の高校に転校した時、あと1ヶ月くらいで帰らなきゃってことはわかってたし。最後の思い出作りだったんだよ」


「じゃあなんで僕なの」
 

「それは、席が隣だったからね」


 もしかして僕に一目惚れしたのかも、という淡い期待は、すぐに壊された。


「転校して、隣の席の子と仲良くなるってのが、私の夢みたいな感じだったから」


 ということは、木下さんの隣が僕でなかったら、僕以外の人と話してたし、僕以外の人とゲームセンターに行ってたかもしれないのか。


「木下さん、退院したらさ、遊園地行こうよ」


「え?」


「1週間後までには退院するでしょ。…そしたらさ、遊園地行こうよ」


 こう言っている今でも、僕は僕が何を言っているのかが自分でもよくわからなかった。


 木下さんも困っているのがわかった。でも木下さんは笑って、


「うん、行こう」


 と、言ってくれた。


「あ、そうだ。木下さんには言ってなかったんだけどさ」


「うん」


「僕も宇宙人なんだよね」


「え?…どこの星?」


「スターチス星っていうんだ」


「へぇ」


 その言葉を最後に、病室は沈黙に包まれた。


 そして、その沈黙が破られることはなかった。