「…っうっ…!」


 木下さんは急に胸を押さえて座り込んだ。


 っえ…?今、何が起こったの。


「き、木下、さん…?」


 僕は呆然と立ち尽くしていた。そして、行き場の失った右手を下ろした。


 …いや、何をしてるんだ、僕は。


「…木下さんっ!大丈夫!?」


 僕は我を取り戻し、すぐさま木下さんに駆け寄った。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、だ、大丈夫…!」


 僕はこんなに大丈夫じゃない大丈夫を初めて聞いた。


 木下さんは、胸を服の上から鷲掴みにし、額には冷や汗をかいていた。


 それからしばらくして、木下さんの呼吸は普段通りに戻った。


 でも、僕は木下さんの背中をさするくらいしかできなくて、自分が子供だってことを痛感した。


 僕はまだ、木下さんのことを、何も知らない。