海であなたが救ってくれました

 急に来たのだから、会えないことも想定済みだ。
 本心を言えば私が直接渡したかった。ここを訪ねるよりも自宅のほうがよかったのかもしれない。
でも、ひと目でいいから彼の制服姿を生で見たかったのだ。

 今さらそんな後悔をしながら、ていねいにおじぎをして三宅さんに背を向けた。
 だけど二十メートルほど歩いたところで、後ろから声をかけられる。


「あの! 霧矢、戻ってきましたよ!」


 振り向いた先には、三宅さん越しにこちらに歩いてくる由稀人くんの姿が見えた。

 でも彼はひとりではなかった。同僚の女性とふたり、話しながら楽しそうに笑っている。

 彼に恋人はいなさそうだったとはいえ、イケメンだしやさしいから女性にモテるに決まっている。
 それがすっかり頭から抜け落ちていたなんて、私はなんてバカなのか。


「それを渡しておいてください。お願いします」

「いや、でも!」


 遠目からでもふたりがお似合いなのはよくわかった。
 女性は長身でスタイルもよく、彼の隣にいてもまったく見劣りなどしない。


「琉花さん!!」


 目立たないように足早に立ち去ろうとしていたのに、由稀人くんが私を見つけてしまった。
 再び振り向くと、三宅さんからお弁当を受け取った彼が、かけ足で私に追いついてくる。