海であなたが救ってくれました

「玉子焼きの味……甘いほうがいいのかな? そういうの聞いておけばよかったな」


 思わずひとりごとが漏れた。
 由稀人くんはなんでも食べると言っていたけれど、さすがに好みはあるだろう。
 特に玉子焼きは家庭によってかなり味が変わってくるので難しい。
 だがここで悩んでも(らち)が明かないので、自分がいつも作っている味付けにしておく。

 そういえば元カレの丈治はかなりの偏食で、あれは好きじゃない、これは食べられないと私が作ったものに文句ばかり言っていたっけ。
 ……はぁ、そんなことを思い出すのはやめよう。
 私は丈治のどこが好きだったのだろう。別れた今となればアラばかりが見えてくる始末だ。

 ふたつ準備しておいたお弁当箱のひとつに、おかずをバランスよく詰め込んでいく。
 もうひとつのほうには、三種類作ったおにぎりをたくさん入れた。


「これで足りるかなぁ……?」


 めちゃくちゃ食べると豪語していた由稀人くんが、実際にどれくらい平らげるのかはわからない。
 あまり多すぎても迷惑になるかもしれないから、このくらいが適量だろうと中身を詰めたお弁当箱を見ながらうなずいた。

 さて、お昼ご飯に間に合うように出かけよう。
 ラベンダー色の総レースになっているワンピースを身にまとう。スカートがマキシ丈だし、雰囲気が上品なので私のお気に入りだ。
 髪を整えてナチュラルなメイクを施し、玄関先でヒールのついたサンダルを選んだ。

 荷物を持って電車に乗る。
 由稀人くんの家は三駅向こうだったけれど、今日はひとつ手前の駅で下車して、海上保安庁を訪ねよう。