海であなたが救ってくれました

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 あの日から十日が過ぎた。
 仕事の引き継ぎも終わり、私は今、有休を消化中だ。

 社内では私と元カレが別れたという噂が流れ始めていたが、不思議と気にならなかった。
 前向きになれているのは、きっと由稀人くんのおかげ。
 今は、次にどんな仕事に就こうか、就活を楽しむくらいの気持ちでいる。

 実は数日前に、ふと思いついたことがある。
 由稀人くんは私の家も会社も知らないけれど、反対に私は彼の家も職場もわかっているのだ。

 であれば、私のほうから出向けば彼に会える。

 それに気づいてからは毎日心が弾んでいた。
 掃除や洗濯や片付けなど、家事しかしていなくてもウキウキとして楽しい。

 今朝はせっせと料理にいそしんでいる。
 鍋で煮込み中である筑前煮の火加減を見ながら、ポテトサラダに使うキュウリを輪切りにしているところだ。
 あとは唐揚げを揚げて、アスパラベーコン炒めを作らなきゃ。

 今日、思い切って由稀人くんに会いに行ってみようと考えている。
 先日のお礼に、お弁当の差し入れをするつもりなのだ。
 料理が得意だという私を彼は褒めてくれて、それがうれしかったから。