海であなたが救ってくれました

「料理が得意ってすごいな。俺はまったくダメ」

「自炊しないって言ってたもんね。でも、泳ぎが得意なほうが絶対にすごいよ」

「いやいや、料理はセンスだから」


 唯一私が自信を持っていることを褒められるのは、やっぱりうれしい。承認欲求が満たされていく。


「男性の中には母親以外の人が作ったおにぎりが食べられないとか、そういうタイプの人もいるけど……」


 昔付き合った彼氏の中に、ひとりだけ潔癖症の人がいたのを思い出した。その人は手料理が嫌いだったっけ。


「俺は全然平気。なんでも食べるし、めっちゃ食べる!」

「わかる。由稀人くんは体も鍛えてるだろうし、なんていうか……生命エネルギーが強そうだもん」

「それ、褒めてる?」


 彼がツッコミを入れ、ふたりであははと声を上げて笑った。
 海でひとりで泣いていたときは、同じ日に誰かと笑いながら話せるとは思ってもみなかった。
 弾けるような笑顔の由稀人くんはキラキラと輝いていてポジティブで、自然と元気をもらえた。

 たわいもない会話を続けていると、部屋の向こうからピー、ピーという電子音が聞こえてくる。洗濯機の音だ。


「洗濯が完了したみたいだな」