海であなたが救ってくれました

「結婚願望強めなのも重い女なのも、悪いことじゃないよ」

「そう? 引かない?」

「幸せの形は人それぞれだけど、琉花さんは将来自分が築く家庭や家族を大事にしたい気持ちが強いだけだ。家庭はギスギスしてるより明るく楽しい雰囲気のほうがいいって、俺もそこは同じ考え」


 丈治ともこうして心の内側を全部話せていたらよかったな。
 そうすれば、彼とは価値観が違うのだと、もっと早く気づけていたのに。
 私は自分の理想を無意識に押しつけていて、彼はそれに対しうんざりしていたのだろう。


「ありがとう。とりあえず人生のリセットだと思って、職探しからがんばってみる。そのうちいいこともあるでしょ」

「え?! 会社辞めたの?」


 ひどく驚く由稀人くんを目にし、退職した話はまだしていなかったとあらためて気づいた。


「今日、退職願出しちゃった。元カレも新しい彼女も同じ会社だから居づらくて。今週いっぱいは引き継ぎがあるから出社するけど、あとは有休消化したら無職」

「気持ちはわかるけど、琉花さんが辞めるのは……なんか理不尽だ」

「私自身が環境を変えたいのもあったの。あ、でも、すぐに再就職できなくても蓄えはそこそこあるから大丈夫。料理は得意だし、自炊して節約もするし」


 私と丈治が付き合っていたのは大勢の人に知られていたので、陰でコソコソ噂話の対象になるのは嫌だった。社内恋愛はそのへんが難しい。

 コツコツと貯めていた結婚資金が違う形で役に立つなんて皮肉だ。
 料理も、良妻賢母になるために普段から腕を磨いていただけなのに。