「お嬢、幾つよ?」

「もう40の声です。」

島で土地を売る相場を聞き込み
したくて、、
カット、、をお願いした。
とりあえず。

そしたら何故か、
オーナーママは
ハサミを持つわけでなく
それまで
素っぴんに
ロット巻きだったのを、
わたしの肩越しから
鏡を見ながら即効化粧をする。

「あの。」

たじろぐ。

そんな、わたしにお構い無しで、
オーナーママは
最後に真っ赤な口紅を引いて

「はあー、全然、若!
1番ええ女の頃や。」

ニコリとわたしに含み笑った。
ちょっと可愛いと思った。
恐ろしい!

「・・・ですかね。」

まず都会で聞けない
褒め言葉。

裏腹に目の前の笑顔は、、

これ、ドラマでよく見るアレ。
マウント取るってやつ?
どうして今?!

「お嬢、うち幾つやと思うよ。」

この時点で
カットも、聞き込みも
やや半分諦める事に。

なにせ
鏡の中から、
カットの椅子を両手で抑えながら
オーナーママが
なにやら挑んでくるのだ。

ちなみに、
実際90オーバーだと知ったのは、
この時だったが、
正直、初会では年齢が謎だった。

空気がいいのか、
食べ物がいいのか、
海がいいのか
島民はとにかく若く見えるのだ。
アンチエイジング万歳。

「若くみえます。都会の60代。」

これは、お世辞ではない。
本気で最初思っていたのだ。

「お嬢、結婚は?」

すかさず、オーナーママが
60代に見える顔で聞いてきた。

「してます。子供もいてます。」

不思議に思いつつも
素直に答える。

「ほんで、島に男は?」

で、次にきたのが
このクエスチョン。

「???」

言われた事が分からずに、
戸惑うと、
横から櫛を持つ
チイママが
助け船?を出してきたが、

「あっちにはおらんやろ?
こっちにゃ、おらんの?紹介
したろーか?よーけええの
おるよってなぁ。」

「!!!」

ようやくカットを
横から始めたチイママの言葉に
絶句。
でも、どーやら気に入られた。
60が、効いたのだろうか。
でも、男って、、

本気なのだ。

ここの住人は。

島の生態カルチャーショックだ。

なにせ、
100歳とかざらになると、
40なぞは、ようやく人生の半分
いってなく、
60でも若い分類。

だから何より『オバサン』
『オバアチャン』
『お母さん』でさえ禁句なのだ。

全て、下の名前で話す。
オーナーママのママもギリギリ
アウトらしい。

仮名で『よしみさん』が正解。
男も女も、下の名前で呼び会う。

わたしなら、
『みかちゃん』で一人前。
『お嬢』は
『お嬢ちゃん』扱いなのだ。

20代は子供扱いされ、
10代は、ひよっこ。
以下は
『ちんまい』。人になってない。

島に来ると、
名実共に自分が若返る。

『まいど!!荷物あっかー?!』

そんな中、
カランと音をさせて
宅配運送業の御用聞きだろう
子供?な若者が美容室のドアを
開けた。

「あ、セイっこ!!ええとこ。
あんた彼女、もーひとりどー」

いきなり!!
グルングルンパーマのご近所さん
聞き耳立てているのが
鏡からも解る。

しかも、若者はアイドルグループ並みのイケメン!!
いや、並みでなく、
本人か?!という似たイケメン。

闇に島の男子はイケメンが
多い。
これも島の歴史的背景が
あるのかもと思っている。

「ええですっ!絶対若いですし」

とわいえ
一応、娘ぐらいの若者?
勘弁してほしい!!

「もーちょい油のっとんのか?」

そこが問題ではない。

「いや、そんなに来れないので」

しぶしぶ、わたしは
バカみたいな答えを返す。
けれど、

「たまに来る時にいるやろ?」

「・・・」

「先生の姪ごやのぉ。」

倫理が島に慣れていない
わたしには、その発想がない。

誰か助けて欲しい。

「家を、、まだ、どうするか
考えてないですし。どうなのか
ちょっと聞いていいですか?」

わたしは
本来の目的を観念して聞くことに。
島に情夫を勧めてくる住人に、
取り繕っても仕方ないと
割り切ることにする。

「売るってか?無理なあ。
せいぜい200万か?更地して
ようやく300ぐらいやでて、
どーやっこか、ほれあっこ。」

どうやらカットは、
チイママの仕事らしく
オーナーママの手は動かない。

空を見る仕草でチイママに、
集落で最近更地にした家の
名前を出して聞く。

「よなあぁ。ここら、そのまんま
しとんの、それやからよぉ。」

それでも、
その家は通りに面した場所の為、
トラックが入れれたとのこと。

「でも維持費かかりますから。」

恐ろしい手際でチイママが
カットを仕上げるのを
驚いて見ながら、
わたしは本音を出した。

「先生とこ、ほんでも最近、
家直しとぉから、もったない」

今度は筒を被るパーマの
常連?マダムが声を上げた。

「え!そうなんですか?」

「そやよ。12月ぐらいよって、
最近よなあ。なあ?」

どうやら床の一部を張り直し
したとの情報をもらう。
下手したら、支払いを
していないかもしれないとも。

急に亡くなった場合の
あるあるだ。
これは早く生命保険を申請
しないといけない。

そんな算段を頭でしていると、

「ここらでも大きいしなぁ。
もう建てられんでなあ。
更地すんでも車入らんよって」

オーナーママが
チイママから引き継ぎブローを
しながら、呟いた。

「あの家どうやって、建てたん
ですかね。知ってますか?」

わたしは前から気になっていた
事を聞く。
実は、叔母の家は割りと大きい。

せめぎ合うような
狭い集落で、
よく建てたなと思うほどにだ。

「昔、先生とこなあ。すごかっ
てんでよ。学校から大型クレーン
で、材料全部釣って、家の上を
飛ばして運んでよぉ。先生が
仕事しとる学校やから、出来た
んよぉ。あんなんないでー。」

「それ本当ですか?」

「ほんま、ほんま。おもろいよ」

なんと意外な裏技を披露された。
ミステリーか!!という
力業で叔母の家は
建てられたのだ。

これは更地には出来そうにない。

「あの固定資産税とかって。」

もう、ぶっちゃけだ。
なんでも聞いてしまう。

「高かないでなあ?」

「んだよ。」

いくらですか?と聞こうとして

「はい!出来たよって!
2000円な。コーヒー飲む?」

カット代金の安さに
固まる。
しかも、恐ろしく早く、
それでいて丁寧。

上手い、、、

「飲みます。」

鏡の中の自分を見て驚く。
実はイレギュラーボブの
カットをお願いしたのだ。

口で説明をすると、
何の迷いもなくハサミを
裁いていたが、
思っていた通りのカットに
仕上がっている。

「うっとこ、2万ぐらいよ。」

新しく入れ直された紙コップ
コーヒーを渡される。

「へ?」

「ぜーきん。」

「年間?」

「年間よ。」

お、お、お、おーーーー。

紙コップのコーヒーが揺れた。