だから私の侍女だけが、数十分の下手な嘘に目をつぶってくれていれば……きっとあんなことにはならなかったはずだ。

 いつも決まった時間になると裏庭へ行き、イブの声が話しかけてくれるのを待った。

 名前を呼ばれたら秘密の通路をくぐり抜けて、少しだけの散歩と遊びを楽しんだ。

 それがいつからか出来なくなった。生垣を修繕されたわけでもなく、屋敷の者に出て行くのを咎められたわけでもない。

 ただ、イブが私の元に来なくなった。

 小範囲に荒れた緑の壁を見つめ、ひとりきりで出て行こうかと考えたときもあった。けれど私はそうしなかった。

 数日待ってみて、それでもイブが現れなければ自分から湖へ出向き、会いに行こうと考えただけで、裏庭にとどまり少年の声をひたすらに待った。

 そのうちに生垣がまた修繕された。

 イブはどうして来ないの? 私のことが嫌いになった?

 楽しかった時間が唐突に終わりを迎え、閉じた壁を見て泣いた。悲しかったし、悔しかったし、おそらくは怒りもあったのだろう。

 遊ぼうと迎えに来てくれないイブに気を揉んでイライラした。

「マリーンはこの場所が好きなんだね」