囚われの令嬢と仮面の男

 すっかり落胆した私と向かい合い、男が仮面の奥で青い瞳を細めた。

 怒っているでも笑っているでもなく、ただただ哀愁を帯びた瞳だった。

 スッと差し出される手を見つめ、私は観念した。革手袋ごしに男の手を取り、再び狭い部屋へと戻った。

「俺を出し抜いたことは褒めてやる」

 いつものように部屋を施錠し、男が紙袋から朝食を順に取り出した。

 ベッドに座ったとき、ようやくその痛みに気がついた。袖の中のものを取り除き、横に置く。

「っいたた」

 あらかじめ右の袖に仕込んでおいた陶器のカケラが腕を擦り、細く赤い線が入っていた。どうやら逃げようと躍起になっていたときに切れたようだ。

「は? 怪我をしたのか? 見せてみろ!」

「ちょ、大したことないわよ」

 男に腕を引かれ、少しだけ血の滲んだ箇所を見られる。ハァ、と嘆息が響いた。

「ちょっと待っていろ」

 そう言い残し、男が一旦部屋から居なくなる。数分もすると、解錠される音がしてまた戻ってきた。手には薬箱と思われる袋を持っている。

 全部自分が悪いんだけど、私はなんて間抜けなんだろうと思った。ベッドに座ったまま大人しく怪我の治療をされる羽目になった。