さっきまで私が弾いていた曲と同じものだが、調子はまるで違っている。はじけるような音を奏でるスタッカートも、そのあとにつづく音符をつなぐスラーも完璧だ。ちゃんと楽譜通りに弾いた上で、自分だけの音色に仕上げている。

「クリスティーナは今日も完璧ねぇ。その才能の半分でもお姉さんにあれば良かったんだけど」

「ありがとうございます、ローランド先生。けれど、姉も頑張っています」

「あら。頑張ることなら誰にでもできるのよ、クリスティーナ。伯爵令嬢にしかるべき教養を、とお母様から言い渡されていますからね」

 あなたは優しいこね、と言って微笑み、先生は妹の頭をなでた。

 私は固く重い教本を頭に載せたまま、楽しそうに会話をするふたりをながめていた。

 ピアノは苦手だ。

 ううん、ピアノだけじゃない。令嬢が身につけるべき教養というものが、どうにも頭に入ってこない。

 勉学は教本を読むより、講義を聴いて覚える耳学問を主流としていて、うっかり集中力がとぎれたら何が何やらわからなくなる。