囚われの令嬢と仮面の男

 息が切れた。「誰か……」と力なく呟き、座っていたベッドへと一旦戻る。

 多分、脱出するルートは男が出て行ったあの扉だけだ。外側から鍵を掛けられている今、いくら手足を自由にされてもここからは逃げ出せない。

 あの男が戻って来たら、直接鍵を奪うしかなさそうだ。

 ハァ、と重苦しいため息がこぼれた。

 奪うってどうやって?

 自分よりも頭ひとつ分は背の高い男性だ。力では全く敵わないだろう。

 そもそも誘拐されたときに、手刀かなにかで気絶させられているのだ。下手なことをすれば、次こそは襲われるかもしれない。

 あの男がお父様と交渉して、無事に解放されるのを大人しく待つしかないのだろうか。どこまでも無力な自分を思い、また嘆息がもれた。そのときだ。

 ガチャガチャ、と金属がこすれるような音が鳴り、たったひとつの出入口が開かれる。

「起きたか」

 仮面を付けた男の姿を見て、自然と肩が強張った。何かされたらどうしよう、と警戒心がはたらく。

 男は両手に抱えた荷物をテーブルの上に置いた。大きな紙袋が二つだ。

 何を運んできたのだろう?

 机上の紙袋を怪しく思いながら男の動作を無言で見守った。男が手に持った金属製のものを見て、あれだと思う。