囚われの令嬢と仮面の男

「まだマリーンは子供なんだ。誘拐される恐れもある。遊ぶなら屋敷内にしなさい」

 それなら外にいるイブを敷地に入れてもいいのかと尋ねると、「それはだめだ」の一点張りだった。

 お父様は私を守りたい気持ちから、外部の者、つまり貴族ではない者との交流を避けているようだった。

 ましてや、イブは親を亡くした孤児で施設育ち。お父様にとって、最も娘に近づけたくない危険分子と判別されていた。


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 ベッドに横たわったまま薄く目があいた。いつの間にか眠っていたようだ。

 のっそりと体を起こすと、それまで掛けられていた毛布が背中から滑り落ち、端がベッドの(ふち)へ垂れ下がった。

 あの男が掛けてくれたもの……?

 なかなかに良質な毛布だ。

 四隅で煌々と輝く燭台(しょくだい)に目を向けてから、部屋の隅に置かれたテーブルと椅子を確認する。

 あの男は、いない?

 燭台の明かりで満たされた室内には、どうやら私しかいないようだ。

 今は何時かしら? 朝? それとも夜? 窓がないから分からないわ……。

 さっきまで寝ていたせいか、ふぁ、とあくびがもれる。大口を隠すため、いつもそうするように右手で口元を覆ったとき、それに気が付いた。

「縄が……ほどかれてる?」