囚われの令嬢と仮面の男

「その歌、いいね。なんて曲?」

 湖のほとりに座って空を眺めていたとき、イブが無意識に口ずさんだ歌に聴き惚れた。

「曲名は分からないけど。僕を産んでくれたお母さんが、よく歌ってくれた歌なんだ」

 イブの母親について尋ねると、彼が物心つくまえに病気で亡くなったらしく、彼はその子守唄を母親の形見にしていた。

 イブと私には、母親がいないという共通点があった。だからなおさら、親近感が湧いたのだと思う。

 お互いの傷を舐め合うように、私たちは寄り添って過ごした。

 切られた生垣が元通りとなったとき、当然イブと会えなくなった。

 私が外の子供と遊んでいることを、当時の侍女もうすうす感づいていたらしく、それはお父様の耳にも入っていた。

「勝手に外へ抜け出しちゃいけないよ、マリーン」

 優しい瞳で諭すお父様に、一応謝りはするものの、私はイブと遊ぶことを諦めなかった。

「でもね、パパ。わたしにも大切なお友達ができたのよ。ほんの少しの時間でいい、遊びに行ってもいいでしょ?」

「だめだ。おまえもローラのようにいなくなるかもしれない」

「いなくならないわ」