囚われの令嬢と仮面の男

 今起きていることと、これから起こる最悪のケースを想像し、体から血の気が引いた。

 お父様はママに捨てられたことで私への愛情が過敏になっている。

 普段から私のお世話を任されているマーサは、私から離れたことで、何か咎めを受けたりはしないかしら?

 たとえばクビにされて屋敷を追い出されたり……、なんてことになったりはしない?

 仮面の男が身代金の交渉を済ませて、無事に屋敷へ帰れたとしても、今ここにいる時間が長引けば、私の居場所はなくなるかもしれない。

 お母様とは血のつながりがないし、妹や弟とは異母姉弟(いぼきょうだい)なのだ。

 唯一心を許せる侍女とお父様が、あの屋敷からいなくなってしまったら、私はひとりぼっちになる。

 そんなの、耐えられない。

 仮面の男がもう一度この部屋に現れたら、お父様が無事かどうかを確かめよう。そして交渉も早めに済ませてもらおう。

 私は何がなんでも、あの屋敷に帰らなくちゃいけない。


 **

 幼いころは自分と歳の近しい遊び相手がいなかった。

 広い屋敷を探検してまわって、時には使用人たちを巻き込んでかくれんぼをしたこともあった。