囚われの令嬢と仮面の男

 ガチャガチャ、と外側から鍵を掛けるような音がした。

 見知らぬ部屋のベッドに座りながら、思考がぐるぐると周り、三角形を描いている。

 男がいなくなったことの安堵と、これから何が起こるのかの恐怖、そしてどうしてこうなってしまったのかという後悔の気持ちがない混ぜになって、私の目頭を熱くする。

 瞳に溜まった涙があとからあとからこぼれ落ちて、私はその場でうずくまり、嗚咽を漏らした。

 恐くて、悲しくて、悔しくてたまらなかった。

 なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?

 舞踏会の夜、男爵家の彼と出会って変わろうと決意したばかりだった。

 ミューレン家にとって、私は低脳でお荷物同然なのに、これ以上迷惑をかけたら見放されるかもしれない。

 私を甘やかすお父様だって……。

 そう考えたところで、ううん、と即座に思い直した。

 お父様は心配するに違いない。ママがいなくなった過去を思い出して、心労のあまり倒れてしまうかも……。

 もともとお父様は心臓が弱いのだ。この誘拐でお父様の身にもしものことがあったら、私は……。

 途端に胸が圧迫されるように苦しくなった。