ひゅっ、と喉から細い息が抜けた。あまりの驚愕に悲鳴すら出なかった。

「ご機嫌いかがですか? 麗しきマリーンお嬢様」

 肉屋の男は、顔に白い仮面を着けていた。無表情の、のっぺらぼうを思わせるつるりとした仮面を。

 ふくみ笑いをした言い草に、仮面の下ではニタリと笑っているような気がした。

 ハッハ、と短い吐息がこぼれた。この男は危険だと瞬時に察知して鳥肌が立つ。

 テーブルに置いたカップを投げつけてやろうと後ろ手で探り、カチャンと鋭い陶器の音が鳴る。

「っあつ!」

 うまく掴めなくて手に紅茶がこぼれた。引っ込めた指先で耳たぶをつまむが、少々のやけどに構っている暇はない。

 慌てて振り返り、ティーポットを両手に掴んだとき、首の後ろに重い打撃を受けた。

 あっという間に視界が霞んで見えなくなる。

 なすすべもなく、私はそのまま意識を手放していた。

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