自信のなさから、今までずっと落ちこぼれのレッテルを受け入れてきたけど……私は変わらなくちゃいけない。

 男爵家では、もしかしたら良縁ではないのかもしれない。でもお父様ならきっと許してくれる。

「だからもう一度……彼に会えますように」

「誰に会いたいって?」

 ぽつりと漏れたひとりごとだった。それに返事が返ってきて、いくぶん慌てた。

 持ち上げたカップを皿に置き、首を振って周囲を確認した。

 すると少し離れた通用口の扉を背にして、ひとりの男が立っていた。

 顔は俯けているので分からないが、行商人のような格好をしている。

「あなた、だれ……?」

 座っていた椅子から恐々と立ち上がり、私は男と対峙する。男は恥ずかしそうに下を向いたままで私との距離をつめた。「単なる肉屋ですよ」と返事がある。

 声が怪しく、くぐもって聞こえた。

 心音が不規則になり、脳に警鐘が鳴り響く。

 一刻も早く、この場所から立ち去らなければいけない、そう分かっているのに、背後のテーブルに体を預けるのが精一杯で、足がすくんで動かない。

 手を伸ばせば触れられる距離まで近づいたとき、突然男が顔を上げた。