囚われの令嬢と仮面の男

「恩だなんて大袈裟ですよ。僕は姉さんの想いを汲んだまでです」

 お父様の死後、私はサミュエル家へと嫁ぐことになった。

 病気だと思われていた私の想いは、ようやく理解され、お母様にも喜んでもらえた。

「精一杯のおもてなしをさせますので、どうぞ寛いでいって下さいね」

「ああ、ありがとう」

 今夜は夫婦して屋敷へ一泊する予定だ。

 アレックスの笑みが私へと向いた。

「姉さんはその後、体調はいかがですか?」

「順調よ。産まれるまではまだ半年もあるけど。今から待ち遠しいわ」

 丸く膨らんだお腹を愛おしく撫でる。隣りに立つエイブラムが私の肩を抱き寄せた。彼の幸せそうな微笑みを見て、胸が熱くなった。

「……このあたりも凄く変わったわね?」

「ええ」

 敷地内から外を見上げると、煉瓦造りの壁がぐるりと屋敷を囲っている。外側に青々とした生垣を残しつつ、防犯対策として新たに壁が設けられていた。

「たびたび荒らされてはたまりませんからね」

 これまでに生垣が切られた過去を鑑みて、アレックスが判断したことだった。