囚われの令嬢と仮面の男

 私の嘆息を聞き、エイブラムが心配そうに目を上げた。体調を気遣っているのだと思った。

「ええ。なんともないわ……」

 あいにく私は立ったままだが、エイブラムは片膝を付いて祈りを捧げている。スクっと立ち上がると、彼は私に手を差し伸べた。

 今日は万霊節(ばんれいせつ)という記念日で、全ての死者に祈りが捧げられる日だ。

 かつて私の花壇があったこの場所には、二つの墓石が建てられている。ひとつはママのお墓で、もうひとつはお父様のそれだ。

「出迎えるのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。こちらにいらしたんですね、姉さん」

「アレックス」

 侍従と共に若き伯爵が現れ、私は軽く一礼をする。

「ご無沙汰しています、ローダーデイル伯爵」とエイブラムも型通りの挨拶をした。

「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう、義兄(にい)さん」

 アレックスが差し出した手を見つめ、相好を崩すと、夫のエイブラムはその手を取り握手を交わした。

「こうして懇意にしてもらえるのがありがたいよ。なによりキミには返しきれない恩がある」