「……わ、たしは。……どうかしていたな。こんなに、優しい……娘、に。手を、掛けるなんて」

「っう、お父様っ。もう、いいから。もう話さないで……!」

 喋るたびに出血量が増える。もはや助かる見込みはないと頭の中ではわかっていながら、私はそれに抗いたかった。

 ハァ、と苦しげにお父様が息をもらした。

「私が……死んだ、ら。た、のむ。ロ……ローラ、の。そばへ……」

「っええ、わかったわ」

 フッとまぶたから力が抜けて、お父様の視界が塞がれた。口元には幸せそうな笑みが浮かび、満足そうな表情だった。

 そこでお父様の吐息が、完全に途切れた。

 両手で傷口を押さえていた私も、そばで見守っていたアレックスも、なにも喋れず、辺りは元の静けさを取り戻していた。お父様の魂が天に召されたのだと理解した。

 私はお父様の背からそっと手を離した。熱い涙がまぶたを焼き、ぎゅっと目を閉じた。時おり、アレックスの嗚咽が聞こえる。

「……マリーン」

 ヴァージルのそばを離れ、彼が私へと歩み寄る。数日ぶりに見るエイブラムは、かなりやつれていた。

「エイブラムっ!」

 彼がおいでと言うように、両手を広げた。足に力を入れて彼へと走り寄る。

 エイブラムの体を支えるようにして抱きしめ、私はその胸のなかで声を上げた。

 どうしようもない悲しみに(むせ)び泣いた。

 ***