囚われの令嬢と仮面の男

「姉さんっ、遅くなりました」

「アレックスっ! お父様がっ!」

「っえ!?」

 ランタンを掲げたまま、アレックスが私のほうへ駆けてくる。弟に続き、侍従のヴァージルもゆっくりとした動作で扉から顔を出した。その肩へ寄りかかるようにして、彼が歩く姿も見られた。

「エイブラム……」

 良かった……。無事だったのね。

 お父様から手を放せずに座り込んでいると、状況を察したアレックスが目を見開き、すぐそばに腰を下ろした。

「姉さんこれは……っ、どうしてお父様が……?! いったいなにがあったんですか??」

「おと、お父様が……、私を、殺そうとしてっ。それを止めるために……っ、ま、マーサが……っ」

「えぇ!?」

 アレックスが顔をしかめ、私のすぐそばに立つマーサを見上げた。マーサが今も手にしている凶器を見て、「そんなっ」と嘆いた。

「っう、……マ、リーン」

「お父様っ!?」

 うつ伏せになったままで、ふいにお父様が意識を取り戻した。細く開いた視界に入るよう、私はできるだけ体をかがめた。

「い、ままで……。すまな、かった」

 傷口を押さえた手に、じわりとまた、血が滲み出てくる。

「いい、いいからっ! お願いだから今はこれ以上喋らないでっ」