囚われの令嬢と仮面の男

 お父様が私へと立ちはだかった状態で静止し、苦しそうに顔を歪めた。振り上げた手から重いシャベルが落ちて、ガシャンと派手に音が鳴る。

 お父様はそのまま膝を付いた。苦しそうに呻き、口から血のしぶきを吐いた。

「お父様っ!?」

 今なにを見せられているのか、自分の目が信じられなかった。

 私に向かって倒れ込んだお父様の背にどす黒いシミができていた。みるみるうちにその範囲が広がっていく。

「っあぁ……、そんな……っ」

 状況を理解して、声が震えた。目頭が一瞬にして熱くなる。

 私たちとは別の、"深夜の来訪者"によってお父様は深傷(ふかで)を負っていた。

「おと、おとう、さま……っ!」

 この出血を止めなければいけないとようやく判断して、私はお父様の背中を両手で押さえた。指の間から生温かい血が溢れ出し、あっという間に両手は血まみれになった。お父様の体から徐々に体温が失われていく。

「お怪我は、ありませんか……マリーンお嬢様」

 頬を濡らしたまま、私はお父様の向こうにふらりと立ち尽くす影を見上げた。

「……マーサ」