囚われの令嬢と仮面の男

 一時、呼吸を止められた喉に酸素が送られ、ゲホゲホと激しく咳き込みながらも両手で体を支えた。お父様の動きに警戒心を怠らなかった。

「今のは……銃声か?」

 怪我をした顔を押さえながら、お父様が弱々しくひとりごちた。

 私は咳が治まるのを待ち、書斎へ向かったアレックスのことを思った。

 アレックス……、上手くいったんだ。きっと今ごろは、エイブラムをあの貯蔵庫から助け出しているはず……!

 呼吸が落ち着いてくるのと同時に、希望が見えてくる。

「だれかが、おまえに。手を貸しているのか?」

 私に問い掛けてすぐ、お父様がハッと息を飲んだ。その視線に倣い、私も屋敷を見上げた。

 チラホラと屋敷に明かりが灯り始めている。さっきの銃声を聞きつけて、使用人の何人かが起き出したのだ。彼らが裏庭(ここ)へ来るのも時間の問題だろう。

 お父様の顔がサッと青ざめた。わなわなと口を開けたままその場から動けずにいる。

「お願い、お父様っ。罪を認めて!」

 いくらか分が悪い現状に歯噛みしながら、お父様が舌打ちをついた。お父様の鋭い目つきがこちらへ飛んでくる。