囚われの令嬢と仮面の男

 私がここで死んでしまったら、エイブラムも助からない……。

 でも。もう……、どうすることもできない。

 死の恐怖がすぐそこまで迫っていた。私の意欲をこてんぱんに打ちのめし、このまま死ぬのだと断念した。

 そのとき。

 ダーン……、とひときわ大きな爆発音が夜のしじまを引き裂いた。

 鋭い音にお父様の肩がビクンと震えた。「今のは、なんだ??」。私に馬乗りになった状態で屋敷を見上げ、お父様の怯えた目が音の出どころを探し始めた。

 あれは銃声だ。

 狼狽えたことで私の喉を締めていたお父様の手が緩み、さっきまでの苦しみから解放される。その隙を見逃さなかった。

 地面に投げ出していた両手を持ち上げ、お父様の頬から左目にかけてを思い切り爪で引っ掻いた。

「……ギャァッ!?」

 悲鳴のあとに低い呻き声が続き、お父様の手が咄嗟に顔を押さえた。

 こういうのを火事場の馬鹿力と呼ぶのかもしれない。

 お父様から逃れるようにして私は全力でその体を押し、地面を這いつくばった。出来るだけ遠くへ離れようともがいた。