囚われの令嬢と仮面の男

 その場に放り投げるようにランタンを置くと、お父様が烈火のごとく怒り狂い、私に向かって手を伸ばした。

「きゃあっ!?」

 節くれだってごつごつとした手が顎の下へと差し込まれる。お父様の大きな手が私の喉を締め、途端に息ができなくなった。気道を圧迫される苦しみに呻いた。

「お、とう……さ、ま……やめ、て……!」

 両手を持ち上げて必死に抵抗を試みた。お父様の手の甲へ爪を立てて、力の限りその手を引き剥がそうとするが、うまくいかない。力の差は歴然だった。

 やがて膝から力が抜けて、私はその場に倒れ込んだ。背中をついた私へ覆い被さるように、お父様が馬乗りになり、その影が月光を遮った。

「心配はいらないよ、マリーン。ちゃんとおまえのことも……っ、あの花壇に埋めてやるからな?」

 お父様の両目からとめどなく溢れ出た涙が、頬や鼻筋を伝って私の顔へと滴り落ちる。

 悲しいけれどこうするしかないんだ、と。その瞳が物語っていた。

 喉を締め上げる力が徐々に強くなり、私の両手は抵抗を諦めた。夜の静寂のなか、微かな風が木葉を揺らし、その音も少しずつ聞こえなくなっていく。死が確実に迫っていた。