囚われの令嬢と仮面の男

 もちろんママは不満を訴えたが、お父様はママを責めて聞く耳を持たなかった。

 そんなときだった。ママが裏庭の生垣を切り、私を連れて出て行こうとしていたのは。

 深夜に荷物をまとめるママを止め、口論になった。

 当時、ママと、とある行商人との仲に疑いを抱いていたお父様は、怒りからママの頬を強く打った。その反動でママは転倒し、運悪くキャビネットの角で頭を打ちつけたそうだ。

「打ちどころが悪くて、ローラはそのまま目を覚さなかった……。あの日もこんな夜だったよ。雲が厚く、時々月が闇夜を照らしていた。私は動かなくなったローラの髪を切り、裏庭まで運んで埋めたんだ」

 お父様はその場にしゃがみ込んだ。目線は途切れず、地中のママに向いていた。愛し過ぎたがために、ママを縛り付けることでしか安心を得られなかったのかもしれない。

「イブを殺そうと思ったのはどうして?」

 聞いてすぐに反応は得られなかった。ゆっくりと顔を上げ、「なんの話だ??」とお父様が眉を寄せた。

「ママがいなくなったころと同時に、私が親しくしていたお友達よ。あの子はまだたったの九歳だった」

「……ああ。あの孤児か」