囚われの令嬢と仮面の男

「確かに。クリス姉さんの才女ぶりにはだれもが舌を巻きますからね」

「でしょう?」

 いいわよねぇ、と続けるとうっかりため息がもれた。

 ……いけないっ。

 会話がネガティヴに傾かないよう、私は慌てて口を押さえた。

 自分を卑下して嘆いても、現状はなにも変わらない。それどころか会話の相手を不快にさせるだけだ。

「まぁ。姉さんは……中身が多少ともなわなくても、容姿にはとびきり優れているんですから、気にすることないですよ」

 口元に手を置いたままアレックスを見やると、なぜか清々しい笑みを向けられた。

「なによ、それ。私のこと馬鹿にしてる?」

「いやいや、とんでもないです」

「あなたの言い方だと、褒めてるんだか貶してるんだか……わからないわ」

「褒めてますよ、充分に」

 はは、と弟が楽しそうに笑う。その雰囲気に釣られて、私も少しだけ笑った。

「そういえば。前にクリスにも似たようなことを言われたわ。確か"見てくれは美人"だとか、そんなことを……」

「……まぁ。なんだかんだ言ってクリス姉さんは、姉さんのことが好きですからね」